作物をつくれば、売上がなくたって生きていけるではないか

TAKEHIKO YANASE

これまで受けた取材でも何度も答えているが、小川町に引っ越してきた一つの理由として「会社で畑をやりたい」というものがあった。東京に住んでいた頃に働いていたデザイン会社は、麻布十番駅直結という好立地で、家賃も不確かな情報ではあるが数百万円はしていたと思う。もちろん事務所にとって、どこにオフィスを構えるかはアクセスや働きやすさ、ブランドイメージにおいて大切だが、当時の自分は自分が使わせていただいているデスクの家賃や経費分すらも稼げているかはわからなかった。オフィスを練馬に引っ越したら家賃は半分以下になるはずだ。その分を給与として還元してもらえないだろうかなどと考えていた。浅はかではあるが、自分が感じた確かな違和感だった。そして、ランチは毎日外食。美味しいお店が多く、今思えばどこで食べるかなど考えるのも楽しい時間だったが、まあお金はかかる。家から会社にもいわゆる満員電車に近いものに乗っていたので、時間と体力とお金がかかる。かといって、会社の近くに引っ越すこともできないでいた。

自分が考えた当時の理想としてはこんな感じだった。会社と家が近い。会社の社員が持ち回りで自炊する。畑で食べ物をつくる。家賃の安いエリアにオフィスを構える。そして、約10年の時が経ち、今はだいたいそんな働き方をしている。家から会社は徒歩10分ほど、自炊をし、畑で野菜(今は菊芋)を育て、東京に比べれば賃料の低い地域で働いている。もちろん、東京に行く際には時間とお金をかけることになるが、今の自分にはあっているし、こういった働き方、事務所のあり方を一つのモデルにしたいと密かに思っている。作物をつくれば、売上がなくたって生きていけるではないか。外で体を動かし、栄養たっぷりな食べ物をいただく。それが身体の健康につながり、よりよい仕事につながる。まだまだ自給自足にはほど遠いが、フィーを野菜でいただいている仕事もあり、毎週新鮮なお野菜を届けてくれる友人農家もいる。その美味しさは、お金で買えない価値がある。数字で測れる価値を超えたものがあることに会社として意識的でありたい。今は事務所と畑は離れたところにあるが、近い将来には事務所のすぐとなりに畑がある事務所を構えたいと考えている。いい物件があればいいのだが。独立して10年、会社にして7年。これくらい続く法人は10%ほどしかないらしいが、まだまだ7歳。義務教育の真っ只中。あと5年で小学校を卒業するとしたら、そのころには一旦理想としてあるかたちに事務所のあり方をシフトできるといい。今はまだ実験的にいろいろやっている段階に過ぎない。今年も無事、カオスな秋を迎え、来年に向けてやりたいこともメモし始めている。